平成19年(行ウ)第26号    政務調査費返還請求行為請求事件
原告 呉羽 真弓
被告 木津川市長 河井 規子 
 
原告準備書面(1)
平成  年 月  日
京都地方裁判所第3民事部合議C係 御中
                       原告   呉羽  真弓
                     
 原告の主張

第1 はじめに
1 争点の所在
  原告としては、本訴訟の争点は、次の点に存在するものと認識しているところである。具体的には、
(ア) 地方自治法103条13項乃至14項(以下、単に「法」という場合は、地方自治法のことを言う)は、政務調査費を、会派所属議員に対し、無会派議員よりも、手厚く支給することまでは容認していないのではないか
(イ) 仮に、百歩譲って何らかの両者間に何らかの差異、区別を容認しているとしても、木津川市におけるように、会派所属議員に対し、無会派議員の約1.5倍もの金額の政務調査費を支給することは、合理的な裁量の範囲を逸脱しているのではないか
 の2点である。

2 本準備書面における原告の主張の骨子
(1)「法」103条は差異を許容しているのか(上記争点(ア)について)
  被告は、「法」103条13項及び14項の文言から、直ちに@「法」が会派を必要不可欠なものと認めており、さらにA会派所属議員と無会派議員との間に差額を設けること、つまり、前者を優遇することが合理的であるとまで主張している。
  しかし、ここには論理の飛躍がある。つまり、立法の経緯からして、「法」は会派の存在を認めていたとしても(上記@の点)、会派所属議員と無会派議員との間に差異を設けることまでは認めていない(上記Aの点)。この点に関して、後に詳述する(「第2」)。
  また、この争点に関連して、「法」改正に伴って作成されていた条例の案においても、会派所属議員と無会派議員との間に差異を設けることについては、否定的であった事実に関しても指摘したい(「第3」)。
(2) 約1.5倍もの金額差に合理性があるのか(上記争点(イ)について)
  被告は、会派所属議員と無会派議員との間の約1.5倍もの金額差に関して、「合理的」と主張しているが果たしてどうか。
  実際、規則(乙9号証)によって、使途に差異が存在するのは、被告も指摘する研修費、及び会議費のうちの茶菓子代、及び無会派議員に関しては事実上支出が制限されている広報費くらいである(乙10号証)。このような現実の使途に照らしても、会派所属議員に対し、約1.5倍もの政務調査費を支給しなければならない必要はない(立法の基礎となる社会的事実がない)。この点に関して、後に詳述したい(「第4」)。
  なお、近々に政務調査費の使用実態も明らかになる予定である。そこで、この点に関しては、被告に釈明を求めている点も踏まえ、さらに主張を補充することを予定している。
(3) その他、本条例に関連する事実として、本条例が制定されるに至った経緯に関して、被告との間で認識に齟齬もあるので、これを明らかにしておく(「第5」)。また、京都府下のその他の市町村における同種条例の実態についても、併せて明らかにしておく(「第6」)。
  最後に、平成19年11月14日付被告第1準備書面に関して、曖昧な点があるので、被告に釈明を求める。

3 以下、順に述べる。

第2 「法」103条13項及び14項が制定されるに至った経緯、趣旨
1 被告主張
 被告答弁書・準備書面(1)の第2(2)における被告主張の要点は、法100条13項は、会派の存在が必要不可欠であることを正面から認めており、議員単独の活動と会派の活動に自ずから違いがあることを認めていると解すべきとある。
 この「会派の存在が必要不可欠であることを正面から認めている」と「議員単独の活動と会派の活動に自ずから違いがあることを認めていると解すべき」との被告主張に対して反論する。

2 立法に至る経緯
(1)そもそも政務調査費とは
いうまでもなく、政務調査費は地方自治体の「議員の調査・研究のため、会派又は議員に対して支払われる必要経費であり、議員に支払われる報酬やその他の手当てとは性質を異にしているもの」(甲5号証)であり、平成12年の「法」改正で制度化された。

(2)政務調査費が補助金であった時代の制度の概要
昭和22年地方自治法制定当時、地方議会議員は「法」203条1項、2項により報酬と費用弁償を支給されるのみであった。地方公共団体の中には、独自に条例や要綱を制定して、「法」に明文のない通信費、交通費、調査研究費、退職金、弔慰金などを議員に支給していたところがあり、給付実態はまちまちであった。
昭和31年法律第147号による改正によって、「法」203条4項204条2項が追加されたことで、議員には、報酬と期末手当、費用弁償以外に金銭の支給ができなくなった。つまり独自の条例等による通信費、交通費、調査研究費、退職金、弔慰金など議員個人への支給ができなくなった。
   そこで、「法」232条の2項の「公益上のその必要がある場合においては、寄付または補助することができる」の規定を根拠として、会派に対して会派調査などの活動の一部を補助する形で、議員の調査研究活動に必要な費用を交付してきた。
   
(3)問題の発生
   しかし、上記のような金銭の支給は、しばしば住民から「第2の議員歳費」とか「お手盛り」という批判がされ、監査請求、住民訴訟が多発していた。
   そこで、前記(2)の対応・対処として、平成11年11月11日全国都道府県議長会は、国会や関係行政庁に対して、「議員の活動基盤の強化に関する要望」(以下「要望」という)を提出した(乙1号証P341)。また同月ごろ、全国市議会議長会も国会や関係行政庁に対し「政務調査交付金の支出について法的根拠をもうけること」を要望した。

 (4)平成12年「法」改正による政務調査費の制度化
上記要望などを受け、以下のように議員立法で「法」が改正された。
平成12年5月18日、衆議院地方行政委員会で「法」の一部を改正する法律案が審議され、全員賛成により可決、同日衆議院本会議で可決された。その後、同法案は参議院に回され、同月23日参議院地方行政・警察委員会において全会一致で可決された後、同月24日参議院本会議で全会一致により可決、成立した。
これら各委員会・本会議議事録によると、衆議院本会議での委員長の趣旨説明に「地方議会の活性化を図るためには、その審議能力を強化していくことが必要不可欠であり、地方議員の調査活動基盤の充実を図る観点から、議会の会派等に対する調査研究費等の助成を制度化し、あわせて、情報公開を促進する観点から、その使途の透明性を確保することが重要」とあるが、上記各委員会及び各本会議では質疑応答は一切行われていない。(甲第6号証の1,2,3,4)

(5)以上の制定過程からいえること
「法」が正面から必要不可欠と認めているのは、地方議会の審議能力の強化であり、議員一人ひとりの調査、政策立案能力の向上である。(甲第7号証)被告が主張する「上記立法経緯から明らかであるとおり、法103条13項は、地方議会の活性化を図り、審議能力を高めていくために、会派の存在が必要不可欠であることを正面から認めている」は、各委員会・各本会議審議を通して提案説明以上の言及がないことからも、「法」にその根拠は見当たらない。ただ、議会内での任意団体である会派が用語として、「法」にはじめて使用されたことから考えれば、「法」は会派の存在を認めているとはいえるかもしれない。しかしながら被告が主張するように必要不可欠であると認めているとはいえない。
さらに、被告は「同条項が、会派に対する支払いを認めているのは、議員単独の活動と会派の活動に自ずから違いがあることを認めていると解すべき」と論理を展開する。会派の存在を認め、支払いを認めているからといって、「法」が違いを認めているとは断定できない。被告独自の主張にすぎない。
また「地方議会の活性化を図り、審議能力を高めていくために、会派の活動が重要であるという観点に照らせば、無会派議員と会派所属議員の政務調査費の交付額に差額を設けること自体は合理的な区別であり、憲法14条に反しない」とさらに論理を展開する。この被告の主張は、「会派の活動が重要である」から「差額を設けることが合理的」と述べるが、先の論理から被告が導いた主張に過ぎない。会派活動が重要であるからといって、すなわち差をつけることまで「法」は許容していない。「要望」は「地方議会の活性化を図るために会派の活動の充実強化が必要」であるから、「県政調査交付金の位置づけの明確化」に向けて「法」改正を求めたものであり、会派のみを重要と認めたものではないことを付言する。

3 制度化で可能になった、議員個人交付
むしろ、「法」制度化以前に会派にのみ交付されていた政務調査交付金が地方議員の調査活動基盤の充実を図るため、議員個人へ交付が可能となったのであり、一人ひとりの議員の調査活動が保障されたといえるのである。
 よって、議員の調査と会派の調査に違いがあることを、自ずから認めている
との被告主張は間違っている。
 
第3 都道府県議長会等の参考条例の内容との比較
参考条例など提示して、被告の主張する会派が実施する調査と無会派が実施
する調査の規模には差異があるとする会派の考え方に反論する。
1 都道府県議長会・市議会議長会の参考条例について
 全国都道府県議長会が提示した「政務調査費の交付に関する条例(例)及び
同規程(例)関係資料集」(甲第8号証)には、「全国議長会として指針とな
る条例等を提示することが必要との認識で一致した」とあり、平成12年11
月10日役員会で「全国都道府県議長会の政務調査費の交付条例(例)」(以
下「都道府県条例案」という)決定されたとある。また、全国市議会議長会が
提示した「政務調査費の交付に関する標準条例等検討委員会の報告書」(甲第
9号証)には、「全国の市議会に共通する標準的なモデル、雛形のようなもの
が必要ではないかとの議論があり、参考となる条例案の作成に取り組むことが
約束された」とあり、標準条例等検討委員会による5回の委員会を経て、調査
費の交付対象を「会派」、「議員」、「会派及び議員」の3条例案(例)が提
案されている。
 これら4案についての交付対象は、以下のとおりである。
「都道府県条例案」
第2条「政務調査費は、○○(都道府県)議会の会派(所属議員が1人の場合を含む)及び議員に対して交付する」
全国市議会議長会の条例案(例)
(会派用)第2条「○○市議会における会派(所属議員が1人の場合を含む)に対して交付する」
(議員用)第2条「○○市議会の議員の職にあるものに対して交付する」、(会派及び議員用)第2条「○○市議会における会派(所属議員が1人    の場合を含む)及び議員の職にあるものに対して交付する」
となっている。
すなわち、会派交付の場合は、いずれの条例案も所属議員が1人の場合を含んだものであり、議員間の区別は想定されていない。

2 参考条例の「会派」の考え方について
 「都道府県条例案」(第5条)には、会派の届出に関しての考え方が示され
ている。(乙第1号証P355)これは、条例上の「会派」と議会運営規則上の
会派とは異なるものかとの問いに、両者に特段の差はないとしながら、「政
務調査費の交付に関する訴訟(徳島地裁)においては1人会派に対する交付も
適当との見解が示されており、必ずしも2人以上で構成することが求められる
ものではない」としている。その上で会派の届け出については、議会運営上の
会派結成届けとは別のものだと方向づけている。
さらには、全国市議会議長会提案の条例の「会派」についても、「特段の認定要件を設けていないが、結成届けの提出の必要性と各市の実態を考慮し所属議員が1人の会派についても交付を認める規定を置いた」(乙1号証P384)とされている。
つまり、議会運営上の会派と政務調査費の会派は同じでないことも認めてい
ると言える。

3 国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律について
 国会では、議会運営上の会派は2人以上の議員を有するが、立法事務費は所
属議員が1人の場合を含む「会派」に交付している。(甲第10号証)

4 議員間の区別・差別は全く想定されていない
雛形といえる4つの条例案並びに立法事務費の交付に関する法律において、所属議員が1人の場合を含む「会派」に政務調査費・立法事務費を交付できるとされていることから、政務調査費の会派に交付する場合においても議員間の区別・差別は全く想定されていないといえる。
よって、ここでも会派を優遇することを認めている被告の主張は誤っている。

第4 約1.5倍もの差異を設ける合理性を欠いている事実
1 被告主張
被告答弁書・準備書面(1)の第2(5)における被告の主張の要点は、会派
所属議員と無会派議員の間に3000円の差額を設けたことは使途基準に照らして合理的であり、憲法14条1項に反しないである。
 この使途基準に照らして合理的との被告の主張に対して反論する。

2 本件規則の会派と無会派に係る使途基準について
(1)本件の使途基準等における差
条例第9条(甲第3号証)は、「別に定める使途基準に従って使用するものとし、市政に関する調査研究に資するため必要な経費以外のものに充ててはならない」としており、使途基準は別表第1・第2(乙第9号証)である。会派と無会派に係る使途基準を比較する。 
項目は、いずれも調査研究費・研修費・会議費・資料作成費・資料購入費・広報費・事務費であり両者に違いはない。しかし、内容については、被告が示すもの以外についても差がある。以下にあげる。
研修費では、会場費・機材借上費・講師謝金は、会派にのみ認められ、
会議費では、茶菓子代は会派に認めているが、交通費は無会派のみ認められて会派に認められていない。
  広報費については、議会活動及び市政に関する政策等の広報活動に関する経費と両者とも違いがないが、被告が主張するように議会内部の「申し合わせ事項」で個人の会報は認められないとされている。ちなみに、「申し合わせ事項」とは、第3、4(3)で述べる世話人会において調整されたものである。

(2)参考使途基準より
 全国市議会議長会の規則(案)の別表第1(5条関係)の使途基準の表の会派用・議員用の2つの使途基準には、研究項目も内容についても全く差がない。(甲第9号証)参考条例(例)のみならず、規則(例)についても、議員間の区別・差別は想定されていないといえる。
 よって、本市規則は特異であるといえる。

(3)上記(1)の差と上乗せの金額の関係について
被告は準備書面第2,2(5)のイで「会派と無会派議員では、なし得る調査研究活動等の活動内容・活動規模等に差異があると考え」「3000円の金額を上乗せした」という。被告のいう差異とは(1)で述べた使途基準の差に対するものあろうと推察する。そして、その差を3000円と決定している。

3 広報費について
上記から明らかなように、本件条例・規則には違いがないものの申し合わせで規制している項目に広報費がある。上位の法律で認められていることが下位の申し合わせで認められない構図となっている。この広報費を取り上げて反論する。

(1) 全国都道府県議会議長会の「政務調査費の使途の基本的な考え方について(以下「同資料」という。)(甲第11号証)」(平成13年10月16日)
同資料は、「各都道府県議会から提出された各種の具体的問題事例について適否を検討した」結果、「全国一律の基準とすることは無理がある」としつつも、具体的問題事例についての基本的考え方を示すものであり、使途基準の唯一の判断材料であるといえる。同資料は、会派交付分と議員交付分に分けて使途基準の考え方を提示してある。
 以下に広報費に関わる箇所を取り上げる。
議員交付分の総論では、
「調査研究活動と他の議員活動は理論的には区別できるが、実際の活動においては、一つの活動が渾然一体となっていることが多く」
「整然と峻別することは困難であることが多い」との考えを示しており、
「充当することが適当でない典型例を示すこと」として個別の考え方を示すとしている。
そして、広報費については、
「議員が行う広報には、」
「@ 住民の意見を聴取することを目的とするもの、
「A 議会活動の成果等を報告するもの」
の2種類に大別されるとした上で、
「政務調査活動という観点からは、住民の意見を議会活動に反映させる目的であるか否かを基本として判断すべき」と言及している。

すなわち、住民意見の把握は議員の役目として必須であることから、意見聴取を目的とした広報は、使途基準に適用されるというのである。言い換えると、会派発行の会報であっても、住民意見を反映させる目的を持たない広報には適用されないといえる。

(2)本件条例による会派広報費の参考として
木津川市議会各会派の会報を本件条例による会派広報費の参考として添付する。(甲第12号証の1,2,3,4,5,6)ただし、この判断については、政務調査費の支出報告書の提出をまって広報費としての支出の適否の判断となるため、4月末まで待たねばならない。

4 使途基準の運用間違い
以上より、本件条例の運用(規則)における使途基準は、無会派議員を非合
理的に区別・差別しているといえる。また仮に3000円の差額が上記の使途基準によるものであるとするなら、その運用報告を得た上で検証すべきでものであるといえる。

第5 木津川市における本条例制定の経過
本市の本件制度の制定過程
1 被告主張
被告答弁書・準備書面(1)の第2(3)における被告主張の要点は、本件条例は3町合併に伴い、旧条例を引き継ぐ形で成立した。また原告も町議会議員として政務調査費を受けていたである。
この「本件条例は旧条例を引き継ぐ形で制定された」との被告の主張に対して反論する。

2 合併以前の制度について
木津町の会派に限定して交付されていた町政調査研究交付金要綱(乙第4号
証の1)は、平成13年4月1日の法改正により、条例の定めによらなければ交付ができなくなった。そこで、木津町では、平成13年6月議会定例会において、条例(乙第4号証の2)が制定され、規則が報告されている。議会会議録によると、質疑・討論は一切なく、全会一致により可決された。(甲第13号証)
乙第1号証P338の行政課長通知には、政務調査費の制度化にあたっては@
交付の必要性や交付対象について十分検討すること、A使途の透明性を確保すること、B額を定めるにあたっては、第3者の意見をあらかじめ聞くなど住民の批判を招くことがないよう配慮することなどが通知されている。しかしながら、提案説明及び審議経過からはそのあたりが十分検討されたかどうか明らかではない。平成13年6月当時原告は議員ではなかったが、同年4月1日の法施行後の6月議会での条例制定であること、附則第2項で町政調査研究交付金要綱の廃止をうたっていることから考えると、要綱をスライドさせたにすぎないと推察する。

3 合併協議会・合併特別委員会について
木津町・加茂町・山城町合併協議会で協議・決定された「協定項目第6」(甲第14号証)及び「協定項目第11」(甲第15号証)は、議員の定数及び報酬などに関わる項目である。
この2つの協定項目は、新市の議会議員の定数は26人、議員の報酬などについては、「報酬・給与の額は、現行の報酬・給与の額及び近隣自治体の例を参考に合併時までに調整する」とされている。そして、平成18年6月22日、「新市特別職報酬等審議会」は、木津川市の特別職の報酬の額について合併協議会会長から諮問を受け、同年9月22日に答申(甲第16号証)し、同年12月1日発行の協議会だより12号(甲第17号証)には「答申内容を尊重することとし、答申のとおりとする」とある。すなわち、合併協議会で、議員の定数と報酬額は決定されたが政務調査費については協議もされていないのである。
また、「協定項目第12」(甲第18号証)は条例、規則の取り扱いに関する項目であるが、「条例等の制定に当たっては、合併協議会で協議・承認された各種事業等の調整内容に基づき、次の区分により整備するものとする」とあり、@合併と同時に施行、A合併後暫定的に施行、B合併後逐次制定の3区分とされている。
 合併協議会で協議・承認されていない政務調査費については、条例制定の区
分に当てはまるものではないため、旧条例を引き継ぐ形で制定されたとの被告
の主張は、間違いである。
 さらに付け加えると、平成18年7月25日第19回市町村合併特別委員会に
おいて原告が新市の政務調査費や費用弁償についての協議はどこでするのか
を確認している。合併協議会事務局長である総務部理事が「議員活動に係る手
当て関係についての内容までは」「審議会で議論する予定はございません」と
答え、さらに「職務執行者の先決処分の範囲に該当しにくいもの」であり、「新
しい市長あるいは市議会議員の皆様が決まりまして、そこで具体的な議論がし
ていただけるもの」と答えている(甲第19号証)ことからも、新たに協議す
るものであることが明白である。その上、条例設置においては、当然、旧自治
省通知が適用されるものでなければならないといえる。


4 木津川市臨時議会までの経緯と臨時議会での審議
(1)全議員初顔合わせ
  新市議員に当選した翌日、19年4月23日1時半より「全議員初顔合わせ」が開催された。(甲第20号証)出席者は、議員全員と事務局職員であった。自己紹介の後、会派幹事会規程(案)の配布のもと、事務局長から新市の議会について@会派制をつくるか否かA構成人数は何人とするかについて本日の協議で決定したいと発言があり、意見交換をした。会派制をとることに異議がなく、全員一致で決定された。原告は、任意の会である会派代表者会議すなわち会派幹事会が実質の権威を持つことのないよう、議会運営が公平・透明に行われるような会派制であるべきとの意見を出した。また、会派の所属議員の人数については、会派幹事会規程(案)では3人以上とされていたが、多数決により2人以上と決定された。原告は、1人会派から認めるべきと主張した。
その後、今後のスケジュールが説明され、同26日9時半より代表者会議を開催する予定であること、それまでに会派結成届けの提出をすることが示された。
当選翌日の議員初顔合わせで上記のことを話し合い決定し、わずか2日間で会派を結成することが示されたのである。そして、4会派が結成届けを提出された。この提出をもとに、4会派の代表者4人による世話人会(甲第21号証)が同26、27日に開催され、初議会に向けた協議が行われた。原告は、会派結成届けを提出していないため、世話人会の協議内容について事務局長より説明を受けた。その説明によると、「本件条例案」については、@金額に関して意見が分かれ、会派に持ち帰って再度調整がされたこと、A結局金額は変更がなかったこと、B金額差の根拠を説明できるようにすべきとの意見があったとのことであった。また、臨時議会での決定を急がなくても、6月議会の議題としてはとの提案も事務局はしたとのことであった。

(2) 初議会説明会
   また、同年5月1日、全議員及び事務局職員出席の初議会説明会が開かれた。最初に事務局長から、初議会がスムーズに行くよう議会運営について説明したいと言われた。説明の前に、原告は「説明を聞いた上で、今の時点で議員はどこまで関われるのか」と質問した。局長は、「説明後、意見を言っていただき、今後一部修正などの対応でお願いしたい」と答えている。同日初議会の議題が付議事件として告示されている。
以上が「本件条例」についての臨時議会までの経緯である。

(3)臨時議会
市長提案された「本件条例」の審議過程は、臨時会会議録(甲第22号証)にあるように、総務部長による提案説明のあと、質疑・討論・採決と移った。質疑は、原告しかしていない。旧自治省通知にのっとり提案しているのかとの質問に対して部長は、「近隣の自治体を参考として」提案していると答え、金額差は議員平等の原則に反するのではとの質問には、「議会の方から説明を受けたところであり、認識をお願いしたい」と答えている。議会の調整の上での提案であるので、行政として答えられない、理解をお願いするにとどまる発言は、旧自治省通知を無視した対応といえる。
  討論となり、「イレブンの会」の梶田議員が「予算は不必要」であり、条例必要なしとして反対討論している。続いて原告も「7000円へと統一すべき」として「本件条例」に反対した。その後、「イレブンの会」の高味議員は「会派に対しての活動費3000円は当たり前であり、呉羽さんも会派に入られたらいい」との賛成討論をしている。そして賛成多数(反対者3人)により可決した。「本件条例」は、原告以外に2人が反対していること、同一会派で賛否が異なっていること、条例自体不要との意見も出されたことなどから考えて、審議が十分尽くされたといえないといえる。

5 旧条例をそのまま引き継ぐものではない
 以上、本件条例は被告が主張する「旧条例をそのまま引き継ぐ」ものではなく、新たな協議の上制定する性質のものであり、制定にあたり通知が適用されるものであるところ、十分に審議されなかったものといえる


第6 京都府下他市町村との比較
1 被告主張
 被告答弁書・準備書面(1)第2(6)における被告主張の要点は、木津川市の交付額の差額は3000円に過ぎず、他の市に比較しても極めて小額であり、月額3000円の差額は程度においても合理的であるから、憲法14条1項に反しないである。
 この「合理的差額」との被告の主張に対して反論する。

2 京都府内26市町村の調査結果より
 被告が提示している別添一覧表は、京都府内各市の調査結果である。
 ここでは、京都府内26市町村議会の調査結果(甲第23号証)を元に反論を
する。木津川市と同様に、会派及び個人に対して政務調査費を交付しているの
は、
    京都市  会派  168万円/人  個人 480万円
    宇治市  会派   36万円/人  個人  24万円
    京田辺市 会派所属 18万円/人  無所属 12万円
    木津川市 会派所属 12万円/人  無所属  8万4千円
    久御山町 会派所属  6万円/人  無所属  3万6千円
精華町  会派所属  6万円/人  無所属  3万6千円
となっている。
被告は京都市・宇治市と本市の比較のための前提として、「会派に対する交付を会派所属議員に対する交付と仮定」し、「会派所属議員と無会派議員の間に京都市では14万円、宇治市では3万円の差額がある」という。そしてその差に比べると、本市の会派所属議員と無会派議員の差額は少額であるから、合理的だと結論づける。しかし、2市の条例は、議員に交付した上に会派にも交付しているものであり、会派及び会派に所属しない議員へ交付する木津川市・京田辺市の条例とは構造そのものが異なるものであるから、仮定が不適切である。
そこで、被告の考え方を用いて同種の条例の2市2町で比較する。
会派所属議員と無所属議員との政務調査費の交付額の差額は、
京田辺市では月額5000円、
久御山町、精華町では2000円、
木津川市では3000円
となり、差額が小額だから合理的とする被告の主張は、ここで崩れることとなる。
   
3 全国的に見ても
 付け加えて、第51回町村議会実態調査結果(平成17年7月1日)(甲第24号証)から述べる。全国1614議会の内、政務調査費条例を制定しているのは299議会(18.5%)。そのうち、交付対象を議員としているのが、151議会、会派が45議会、会派及び議員が103議会である。会派及び議員に交付している103議会の内、交付額が異なる議会が6議会(木津町はここに含まれていた)であり、京都府3議会、岩手・石川・滋賀各1議会との結果からみても、全国的にも稀有な構造であることが明らかである。
 新規制度が開始された場合の地方公共団体における違法な条例や運用の存在という事例が過去に存在していることから考えても、本件が法律改正によって新しく制度化された「政務調査費」であることから、いくつかの自治体において違法状況が存することはあり得ることともいえる。だからといって、違法性が否定されて適法の認定を受けるものではない。逆に、全国の多くの地方公共団体議会において、差別・区別が無いことが当然であることを示しているというべきである。

第6 総括
以上の点から、本件条例における差別的な規定は、議員の見識や見聞を高め
政策能力のなお一層の向上に資するという「法」第100条第13項「条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派または議員に対し、政務調査費を交付することができる。この場合において、当該政務調査費の交付の対象、額及び交付の方法は、条例で定めなければならない」の趣旨に違背し、もしくは議会に許された裁量の範囲を著しく逸脱した違法なものというしかない。




              求 釈 明

1 「会派と無会派では、なし得る調査研究費の活動内容、活動規模等に差異があると考えられ」とされているが(7頁「(5)イ」)、具体的には、如何なる点に差異が存在するのか説明されたい。
2 本規則が政務調査費の使途として認めている研修会とは、具体的には、如何なるものと言うのか。

3 本条例の使途基準にある「広報」であるが、会派の会報であっても議員個人の活動の報告にかかる部分は、含まれないのではないか。

4 政務調査費に係る申し合わせ事項は、無会派議員をも拘束する趣旨のものか。

5 「会派の勉強会にかかる経費(会議費、資料作成費、事務費)は、規模、頻度からみても無会派議員に比して多いことが想定される」とあるが(8頁)、実際はどうなのか。